介護・育児・転職・移住・闘病などの経験を本にする方法。読者の痛点から目次を組み、一次資料で裏取りし、筆名で出す「体験記×実用」の型を手順で説明します。
親の介護を5年やった。会社を辞めて地方に移住した。子どもの偏食に3年悩んだ。闘病の記録がノートに残っている。「この経験、誰かの役に立つんじゃないか」と思いながら、書き始め方が分からずにいる人に向けて書きます。自分の経験を本にするとき、いちばん多い失敗は「自分の話を時系列で全部書く」ことです。それは日記であって、本ではありません。この記事では、経験を読者の役に立つ形に組み替える「体験記×実用」の型と、読者の痛点から目次を組む手順、事実の裏取り、筆名での出し方まで順に説明します。
自分の経験は本になるのか:当事者の記録は一次資料
結論から言うと、なります。ただし条件があります。「珍しい経験だから」ではなく、「同じ状況にいる人が今まさに知りたいことを、通り抜けた人しか書けない解像度で書いてある」ことです。
介護を例にします。介護の制度を説明した本は、専門家が書いたものがすでに何冊もあります。でも、「ケアマネージャーとの初回面談で何を聞かれ、何を用意しておけば楽だったか」「深夜の徘徊で警察に電話したときの実際のやり取り」「兄弟に費用分担を切り出した言い方」は、通り抜けた人にしか書けません。当事者の記録は、それ自体が一次資料です。専門家の本と競合するのではなく、専門家の本に書いていない部分を埋めるのが、経験を本にするときの立ち位置です。
運営者は2025年からひとりで131冊を出し、月15万円のロイヤリティに達した月があります。その中には介護・育児・転職・住宅ローンなどの体験記も含まれていて、体験記の分野では「私だけじゃなかった」という趣旨のレビューが届きます。数字より先に、そういう反応が返ってくる分野です。
経験を本にする型:体験記×実用
経験を本にする型は、「体験記×実用」です。自分の経験を軸にしながら、章ごとに「読者が今日から使えること」を必ず1つ置く。この2層構造にすると、日記でも教科書でもない、読者が最後まで読める本になります。
構造は次のとおりです。
- 各章の前半: そのときに自分が何に困り、何をして、どうなったか(体験)
- 各章の後半: 同じ状況の読者が使える手順・言い方・確認事項・制度の名前(実用)
たとえば転職の本なら、「面接で退職理由をどう答えたか」という体験のあとに、「退職理由を3つの型に分けて、自分の状況に近いものを選ぶ」という実用パートを置く。育児の本なら、「夜泣きで自分が限界だった夜」の記録のあとに、「限界のサインを自分で見つけるチェック項目」を置く。
この型には、もう1つ利点があります。体験の部分は自分にしか書けないので、他の本と重複しません。実用の部分は読者が本を「使う」理由になるので、レビューで「参考になった」と書かれやすくなります。両方そろって初めて、経験が本になります。
経験を本にする目次は、読者の痛点から組む
書き始める前に、目次を読者の痛点から組みます。自分の経験を時系列に並べるのではなく、「同じ状況の人が、どの順番で何に困るか」を並べ、それに自分の経験を当てはめていく順番です。
手順は3つです。
- 痛点を書き出す。同じ状況の人がネットで検索しそうな言葉、SNSでこぼしそうな愚痴、自分が当時ノートに書いた不安を、20〜30個書き出します。「介護 仕事 両立 限界」「移住 後悔 冬」のような言葉です。
- 痛点を時間順に並べる。始まる前の不安、始まった直後の混乱、慣れてきた頃の見落とし、終わったあとの整理。読者は自分の段階に当たる章から読むので、章タイトルにその段階が分かる言葉を入れます。
- 自分の経験を当てはめる。各痛点に、自分が実際にやったこと、失敗したこと、あとから分かったことを対応させます。対応する経験がない痛点は、正直に「自分は経験していないが、調べた範囲では」と書くか、章から外します。
このやり方で目次を作ると、自分の経験のうち本に入るのは半分くらいになります。残りの半分は読者の役に立たない部分なので、削っていいのです。「全部書きたい」気持ちは分かりますが、読者は自分の困りごとの答えを探して本を開いています。
売れない本の多くは、この目次の段階で読者ではなく自分を向いています。売れない理由の整理は /guide/kindle-shuppan-urenai を読んでください。
一次資料と事実監査で、経験を「使える本」にする
経験を書く本で、一番信頼を落とすのは記憶違いです。制度の名前、金額、期間、手続きの順番。3年前の記憶は、思っているより曖昧です。読者が本に書いてあるとおりに窓口へ行って「そんな制度はありません」と言われたら、その本の評価は終わります。
対策は2つです。
1つ目は、一次資料を当たることです。制度や手続きに触れる箇所は、自治体や省庁の公式ページ、法令の条文、契約書や明細など、自分の記憶ではない資料で確認します。当時の領収書、メール、メモ、写真が残っているなら、それも一次資料です。本文には「当時の自分の場合」と「制度として一般にこうなっている」を分けて書き、後者には確認した資料の名前を添えます。
2つ目は、事実監査です。書き終わった原稿から、数字・固有名詞・制度名・日付をすべて抜き出して一覧にし、1つずつ確認済みかどうかをチェックします。運営者の本でも、この工程を必ず回しています。地味ですが、体験記が「感想文」ではなく「使える本」になるかどうかは、ここで決まります。
医療・法律・お金に関わる内容は、経験として書くことはできても、それが読者にも当てはまるとは限りません。「私の場合はこうだった」を超えて「こうすべき」と書く箇所には一般論としての根拠を付け、「個別の状況は専門家に確認してください」と添えてください。
経験を本にするなら筆名で出せる:顔も本名も出さなくていい
経験を本にするときの心理的な壁は、「知り合いに読まれたらどうしよう」です。介護や闘病、家族との関係が題材なら、なおさらです。
KDPでは、本の著者名に筆名(ペンネーム)を設定でき、本名はサイト上に表示されません。1つのアカウントで、ジャンルごとに違う筆名を使うこともできます。注意点は2つで、Amazonからの支払いと納税に必要なため、KDPアカウントの登録情報には本名が必要なこと、そして出版後に主著者名は変更できないことです。筆名は入力時に誤字がないか確認してください。
参考: KDP公式ヘルプ(https://kdp.amazon.co.jp/ja_JP/help/topic/G2BWJN2BY98T5PV2)
筆名で出す場合も、本文に登場する家族・同僚・医療機関などは、本人が特定されない形に変えてください。地名や施設名をぼかす、複数の人物を1人にまとめる、時期をずらす。事実を変えるのではなく、特定につながる情報だけを外すのがコツです。プライバシーや名誉に関わる懸念がある場合は、専門家に確認してください。
経験を本にしたあと、どれくらい読まれるか
現実を書きます。個人出版の本は平均して100部も売れないと言われ、初心者の最初の1〜2冊は月500〜3,000円が中央値に近い水準です。体験記も例外ではありません。「私の経験なら売れる」と思って出した本が、月に数百円、ということは普通に起きます。
そのうえで、経験を本にした人に返ってくるものは、金額だけではありません。同じ状況の読者からのレビュー、「この本に救われた」というメッセージ、そして自分の数年間が整理されて1冊にまとまった、という区切り。体験記は、出す前の想定より、出したあとの手応えが大きい分野です。
金額の面で言えば、体験記は電子書籍とKindle Unlimitedの相性がよく、読み放題で読まれたページ数に応じた分配もあります。仕組みは /guide/fukugyou-hon-wo-kaku で説明しています。読まれ方を伸ばす方法として、同じ経験の別の側面で2冊目を出す(介護なら「お金」と「兄弟との調整」で分ける)と、1冊目の読者が2冊目にも流れます。
費用面では、原稿と表紙を自分で用意すれば必須費用は0円です。内訳は /guide/kindle-shuppan-hiyou、出版までの手順は /guide/kindle-shuppan-yarikata を読んでください。
まずは、あなたの詳しいことが本になるか確かめる
「この経験は本になるのか」は、同じテーマの既刊がどれだけあり、どう評価されているかを見ると、かなりの部分が分かります。無料の出版診断(/shindan)では、テーマを1つ書いていただくと、その分野の既刊数・競合の評価・読まれ方の目安・近い既刊の例を、運営者が見て2営業日以内にメールで返します。売り込みの電話やLINEはしません。
よくある質問
特別な経験ではなくても本になりますか
なります。読者が求めているのは珍しさではなく、「同じ状況の自分が次に何をすればいいか」です。ありふれた経験ほど同じ状況の人が多く、通り抜けた人の具体的な手順には需要があります。既刊に同じ角度の本がないかを確認してから、目次を組んでください。
家族や知人に知られずに出せますか
KDPでは筆名で出版でき、本名はサイト上に表示されません。ただしアカウントの登録情報には支払いと納税のため本名が必要です。本文に登場する人物や場所は、特定されないよう情報を外して書くことを勧めます。
文章が苦手でも書けますか
体験記×実用の型なら、うまい文章より具体性が価値になります。まず痛点から目次を作り、各章に「当時の自分がしたこと」と「読者が使える手順」を箇条書きで埋めてから、文章にする順番で進めると書けます。自分で書いた原稿の校正にAIを使うことは、KDPの申告なしでできます(/guide/kindle-shuppan-ai-shinkoku)。
※このガイドはKDPの公式ヘルプと運営者の出版実績にもとづいて書いています。仕様や料率は変わることがあるため、 実際のご判断は必ずAmazon KDPの最新の公式情報でご確認ください。

